第24回 環境美化教育優良校 最優秀校を受賞した長原小学校の環境教育について、今回はその経緯と取り組みを紹介します。
はじまる環境教育のあゆみ
1. 長原小学校の紹介
長原小学校区は松茂町東部の海辺に位置し、南北に長い半島のような地域です。
以前は漁業が盛んでしたが、最近は時代の流れに伴って漁業以外の家庭が増えています。長原小学校と地域の結びつきは強く、学校の教育活動について地域のみんなが協力的です。現在は過疎化が進み、令和5年度は4年生3名、6年生4名の小規模校になりました。
2. 「スーパーとくしまGXスクール」指定校としての取り組み
令和4年度、長原小学校は「スーパーとくしまGXスクール」に認定され、SDGsの観点から環境問題の学びについて取り組みました。「GX」とは、「グリーン・トランスフォーメーション」の略称で地球環境の改善や脱炭素を推進する取り組みです。
(1) 学校や地域における環境学習の現状と課題
松茂町は、吉野川三角州の上に発達した集落で、徳島市・鳴門市の中間に位置し、昔から青果菜類の産地として名を知られた農村でしたが、海上自衛隊の設立以来、都市化が進んできました。
長原小学校では、豊かな自然環境を活かした環境学習を継続してきましたが、急速な人口減少が進み、地域の貴重な自然の価値が見失われつつあります。
(2) 目標
長原小学校区を含む地域、ひいては地球規模の環境の現状を自分との関わりから「自分事」として捉え、それを踏まえたうえで問題意識を持てるようにします。
そして、仲間とともにさまざまな問題意識を共有し、整理する中から共通の学習問題としてまとめ、その解決に向けて、いろいろな方向から学び合い、環境負荷の低減や自然との共生等の課題克服への手立てを探ることで、子ども一人一人の意識改革と行動変容につなぐことができるようにします。
3. 取り組みの内容
(1) 海岸清掃を中心とした活動
天候の良い日に行ったので、毎月2回程度のペースで行いました。何回か繰り返して実施した後の振り返り学習では、次のような意見が出てきました。
- ● 結構ごみが多く、回収用の箱がすぐにいっぱいになる。
- ● ペットボトルなどの生活ごみが、意外と多い。
- ● プラスチックごみも多く、海岸に散乱している。
- ● 自分たちがごみを拾うことで長原の海岸がきれいになると思うとうれしい。
子どもたちは、自分たちにとって身近な海岸に予想以上にごみが多いことや、自分たちがごみを拾うことで環境を美しくすることができることに活動の意義を感じていました。
そのほかにも、毎年5月30日(「ごみゼロの日」)には、町内にある長原漁港周辺の清掃活動を長原漁協・松茂町役場と連携して行い、地域の環境を守る活動を継続して実施してきました。子どもたちにとって、自分が地域の一員であることを実感できる機会となっています。
(2) ごみ投棄の課題に直面する
海岸清掃を中心とした清掃活動を継続的に行ってきた1学期でしたが、夏休み明けの海岸清掃で投棄ごみの多さに驚きました。
夏休み明けの第1回目のごみ清掃で、子どもたちは、出発する前から不安そうな言葉を漏らしていました。
「今日は、ごみが多そうな気がする。」
案の定、子どもたちの言葉通りの結果となりました。海岸の至る所にバーベキューをした跡があり、そこら辺に空き缶やペットボトル、弁当のプラスチック容器などが散乱していたのです。
実は、子どもたちは予想していたのです。夏休み中たくさんの人たちが海岸で遊んでおり、その人たちがごみを捨てて帰っているのではないかと。
この活動の後、子どもたちは、ごみのことについて子どもたちなりに一生懸命考え、自分たちが考えたことをぜひホームページで紹介してくださいと校長室まで説明に来ました。次の内容が子どもたちが訴えたいことでした。
- ● 何で、ごみをすてるのか。
- ● ごみは自分で持って帰ってください。
- ● 海の環境をこわさないで。
- ● 海に来ている人のことも、海にいる生き物たちのことも考えましょう。
そして、海は、自分たちのものではありません。 - ● 楽しむのはいいけど、後片付けはきちんとしてほしい。そしたら、また来た人が楽しめるから。
つたない言葉ではありますが、子どもたちが真剣に考え、多くの人に自分たちの考えを届けたいと思い考えた内容です。このことをきっかけに、子どもたちのごみ問題に対する意識がしっかりと芽生えてきました。
ごみ問題は、自分たち人間の行動によって発生している問題であるということに気がつきました。
そして、自分たちにできることを考えようと真剣になってきました。
(3) 上勝町ゼロ・ウェイストセンター見学
こういった海岸清掃や漁港清掃をもとに、資源の活用の観点から、ごみの分別の問題にたどり着きました。
そして、ごみの分別を含めごみのことをもっと学習するために、上勝町ゼロ・ウェイストセンターへ見学に行きました。
見学から、生ごみなどはコンポストを利用し各家庭で堆肥化していることや、瓶や缶などは資源という認識で、上勝町のみなさんがそれぞれ『ごみステーション』に持ち寄って45種類以上に分別して、80%を超えるリサイクル率を実現していることを学びました。
そして、ごみを減らすことの大切さや地球温暖化についてくわしく学び、家庭ごみが環境におよぼす影響の大きさについて気付くことができました。
この見学を通して、ごみを出さないための工夫や、ごみの分別や再生の大切さを実感することができました。
(4) 自分の生活を見直そう
講師には、松茂町出身で環境省主査(当時)の美鳥佳介さんをお招きしました。世界60カ国の訪問経験がある美鳥さんから、日本だけでなく世界の環境を守るために大切なことを学び、「みんなが幸せによりよく生きることができるようにするために」「あなた自身が幸せになることが一番大切」そのためには、「あなた以外に対して親切な行動をしましょう」「傷つけることは幸せから遠ざかること」との言葉をもらいました。地球に対して親切な行動をすることで、地球温暖化、海洋ごみ、プラスチック問題等の解決に一歩を踏み出す「自分にできること」を考え、自分の生活を見直すことにつなげました。
(5) 学びを伝え・広げる
学びの過程ごとに、様々な形で学びの成果を表現する学習を次のように展開しました。
まずは、材料集めです。
海岸清掃では、いろいろなごみを回収しています。
ごみを拾うだけでは本当にごみなのですが、これを材料にして何かを作ることはできないかと考えた時に、子どもたちの頭の中で、「ごみから材料に」というように、ごみに対する見方が変わっていきました。
たこつぼ、ペットボトル、キャップ、プラスチックの破片、サンダル等が、子どもたちの頭の中で創造力を働かせ、思いもよらない造形物へとつながっていきました。
2017年にはSTEAMの普及を目指して株式会社steAmを創立されるとともに、経済産業省の委員にも就任されています。2020年には日本国際博覧会のテーマ事業プロデューサーの一人(担当するテーマは「いのちを高める」)になられるなど、様々な分野でご活躍されています。
これまでに子どもたちはごみを活かした造形活動は経験済みでしたが、今回は楽器を作って音楽を演奏する活動で、初めての取り組みでした。講師の中島さんやアーティストのみなさんが、単なる海岸にあった木材などのごみをいろいろ組み合わせて楽器にしていく様子に触発され、子どもたちは、いつも以上に興味と創作力を示して意欲的に活動し、それぞれ時間をかけて工夫した楽器を作り出すことができました。
最後にはみんなでセッションをすることもでき、貴重な経験となりました。
- ● 海にごみを捨てないでほしい。
ごみにはいろいろな種類があり、海の生き物や人間の身体にも悪い影響がある。 - ● ごみを減らすことや、ごみを出さない工夫が大切だ。
余分な物を買わない、ごみを持ち帰って分別して捨てる。 - ● 一人一人が地球全体のことも考えていかなければいけない。
全ての生き物を大切にすることとごみを減らすことは、とても関係がある。
5Rについても積極的に取り組み伝えていきたい。 - ● 地球温暖化について、たくさん学んだ。その中に、地球に親切にしようという言葉がある。
サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズを目指してこれからもがんばりたい。
この一年間の取り組みから、子どもたちはごみ問題を通して地球環境まで幅広く考え、その解決策について子どもなりに取り組む経験を積むことができました。子どもたちの成長を感じる発表でした。
4. まとめ
「スーパーとくしまGXスクール」指定校として、令和4年度環境学習に取り組むことができました。 今回取り組んだ海岸清掃により、自分たちの生活の中にある環境問題として、「ごみ」の問題を「自分事」として考えるきっかけとなりました。
さらに、ごみを捨てないことから始まり、分別することの意味、資源として再利用することの大切さなど、実感を持って学ぶことができました。
令和5年度もこの取り組みを継続し、子どもたちの今後の生活において、持続可能な資源を大切にする生き方による環境豊かな地域社会の形成者の一員として成長していってほしいと願っています。